今日の1枚(91)

清明の今朝、西大井近くの住宅街でウグイスの初音を聞きました。まだ都会にも暮すウグイス、先日は品川区民公園で姿を見かけましたが、鳴き声と姿が一致することは極めて稀。梅にウグイス、実はメジロだったりするのもそのせいでしょう。
今日はカラヤンの101回目の誕生日ですが、構わずフルトヴェングラー、行きます。ワルキューレの最終回、第3幕です。
前幕までの登場人物の内、ジークムントとフンディンクは第2幕で死んでしまいますし、第3幕にはフリッカも出ません。代わって登場するのが8人のワルキューレたち。出てくる順にキャストを書き出すと、
ゲルヒルデ/ゲルダ・シェイラー(ソプラノ)
ヘルムヴィーゲ/エリカ・ケート(ソプラノ)
ワルトラウテ/ダグマール・シュメーデス(ソプラノ)
シュウェルトライテ/ルート・ジーヴェルト(アルト)
オルトリンデ/ユディット・ヘルヴィッヒ(ソプラノ)
ジークルーネ/ヘルタ・テッパー(アルト)
グリムゲルデ/ヨハンナ・プラッター(アルト)
ロスヴァイゼ/ダグマール・ヘルマン(アルト)
この内オペラ辞典に名前が残るほどの人はケートとテッパーでしょう。
ケートは1927年9月15日生まれのドイツのソプラノ。録音の時は27歳になったばかり。学費を稼ぐためにジャズバンドで歌っていた苦学生で、1947年にヘッセン放送が開催したコンクールでクリスタ・ルートヴィッヒと優勝を分かち合った仲。ウィーンは1953年から歌っています。
ツェルビネッタが有名だったコロラトゥーラ・ソプラノ。1989年2月21日死去。
テッパーは1924年4月19日生まれのオーストリアのメゾ=ソプラノ。録音の時は30歳。モーツァルト、ワーグナー、シュトラウスが得意で、バイロイトは1951年と1952年に出演しています。
他の6人については資料が見つからないので、当盤のブックレットを簡単に引用します。
シェイラーは1925年7月18日生まれのオーストリアのソプラノ。51年にフォルクスオパー、57年から国立歌劇場というのがウィーンとの関係だそうです。
シュメーデスは1900年3月15日生まれのオーストリアのメゾ=ソプラノ。父は高名なデンマークのテノール、エリック・シュメーデス。フォルクスオパー所属。
ジーヴェルトは1915年生まれのドイツのアルト。バイロイトではフリッカを歌ったこともある由。
ヘルヴィッヒは1906年8月19日生まれのスロヴァキアのソプラノ。ウィーン国立歌劇場は1946年から1972年まで所属。
プラッターは1902年5月29日生まれのドイツのアルト。40年以降はフォルクスオパーの常連。この人もザルツブルク音楽祭でフリッカの経験あり。1965年12月15日死去。
ヘルマンは1920年生まれのチェコのアルト。1946年にウィーン国立歌劇場と契約し、1974年まで所属した名脇役。
第3幕は70分弱、3枚目のCDにスッポリ収まっていますから、通して聴くことができます。
各場のトラックは、第2場が6の途中、第3場は7の途中とやや中途半端です。第3場などはブリュンヒルデの歌からトラック8が始まりますが、第3場はその前のオーケストラ前奏からですからスコアを見て聴く人には不親切ですし、音楽的にもおかしいでしょう。一考を要す。
この録音は音楽以外の効果音を採用していませんから、「魔の炎の音楽」でヴォータンがローゲを呼び出す3回の「突き」音は入っていません。
最後に「ワルキューレ」のオーケストレーションに触れておきます。
ピッコロ、フルート3(3番奏者第2ピッコロに持ち替え)、オーボエ3、イングリッシュホルン(4番オーボエに持ち替え)、クラリネット3、バスクラリネット、ファゴット3、ホルン8(うち2人はテノール・チューバ、2人はバス・チューバに持ち替え)、コントラバス・チューバ、トランペット3、バス・トランペット、トロンボーン4(テノール3本とバス1本)、コントラバス・トロンボーン、ティンパニ2組、トライアングル、シンバル、小太鼓、タムタム、グロッケンシュピール、ハープ6台、弦5部(16-16-12-12-8)。他に舞台裏でシュティーア・ホルンを鳴らします。この楽器についてはオイレンブルク版スコアの楽器リストには表記されていませんから要注意。
シュティーア・ホルンが登場するのは第2幕の最後、駆け落ちした二人を追うフンディングの角笛を象徴しています。鳴らされるのはC音ですが、チューバで代用されることが多いとか。この録音では尤もらしく聴こえますが、真相は如何に。
3番ファゴットには低いA音が随所に出てきますが、ワーグナーは演奏が難しい場合にはコントラファゴットで代用しても可と注意書きを残しています。フルトヴェングラーが第3ファゴットをどう扱っているかについてはさすがに聴き取れません。
ホルンは第1幕と第2幕は通して4人。他の4人は終始チューバ(いわゆるワーグナー・チューバ)を担当。しかし第3幕ではワーグナー・チューバは一箇所も使われず、ホルンは8人で吹くことが多くなります。
こういうことは意外に解説されていませんから、舞台でも録音でも聴く時に注意すると面白いでしょう。
打楽器は、第1幕ではティンパニ2組しか使われません。トライアングル、シンバル、小太鼓、タムタムは第2幕と第3幕だけ。またグロッケンシュピールは第3幕の最後、炎を現わす時だけに登場します。
ハープは6台使うように指示がありますが、当録音で実際に6台使われているかは不明。
実際の舞台上演、特に日本の劇場はピットが狭いので3台で誤魔化す(表現は悪いですが)場合が多いでしょう。新国立のトーキョー・リングでは確か3台でした(何年か前の公演)。東京シティフィルが演奏会形式で取り上げた時は6台のハープがズラリと並んで壮観。
第1幕は低い音を中心に開始し、次第に高い音の楽器を加えて嵐の頂点に到り、2組のティンパニが轟きます。
これに対し第3幕は所謂「ワルキューレの騎行」で開始。第1幕とは逆に高い音を中心に開始し、次第に低い音を加えていくところが聴きどころでしょう。コントラバスが登場するのは幕が開いてからスコアにして22ページも進んでから。
ワルキューレたちの登場過程も同じ。ほぼ3段階に分けられ、最初はソプラノの二人(ゲルヒルデとヘルムヴィーゲ)が、続いてソプラノ二人(ワルトラウテとオルトリンデ)とアルト一人(シュウェルトライテ、ただしワルトラウテと同時)が、ややあって最後にアルト三人(ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイゼ)が登場する構成になっています。
これなど空中高く飛び交うワルキューレたちが、次第に高度を落として地上に近づく様を連想させ、さすがワーグナーと感心してしまいますな。
参照楽譜
オイレンブルク No.908

 

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